福祉:特集記事その② 特別支援学校におけるキャリア教育 2020年7月7日 投稿情報「試行錯誤の時期の基本方針の策定状況」

試行錯誤の時期の基本方針の策定状況

 障害者を一般就労させるための各種取り組みの中で、教育現場での外部専門職能の活用についてのレポートその②(20200707)です。
今回その②は試行錯誤の時期の基本方針の策定状況のレポートです。(*就労を前提とした外部支援の考え方)

 福岡市立特別支援学校「博多高等学園」は軽度の知的障がいを持った高校生達が、一般就労(企業等への就職)を目指す為の戦略性の高い特別支援学校の高等部のみの学校です。(他の特別支援学校は小学部・中等部もある)
開校当初は1学年2クラス20名(1クラス10名)でスタートしましたが、現在は生徒数が増え1学年4クラス40名の満定員です。入学希望者は開校当初より多く、障がいも軽度で将来就労する事を希望(保護者の意思)があるか可能性のある生徒を選抜(入試)して合格した生徒達が学ぶ学校です。

 一般的には健常者の高校生でも入学時点で明確な自己の職業人生を想像するのは難しい年齢ですので、知的障がいを持った生徒達が長い職業人生の就労イメージを持つ事は大変難しいものがあります。その為にキャリア教育の意義があるのですが、このキャリア教育の基本概念が、当初より我々の様な外部の専門職の足かせ(足かせというより自縛や思い込みに近い)になっていました。
極論ですが、未来の自分の人生を、職業を通してどのように実現していくのかを自分自身の力で考え、想像していくのがキャリア観であり、言わば人生を前に進める為に必要なエンジンの様なものです。それを学んでもらうきっかけ作りが学校におけるキャリア教育に実践とも言えます。

 対して、就職活動時期にキャリア教育と同じく重要な学びとして職業教育があります。こちらは世の中にはどのような職業があり、自分の適性と職業との相性をどう理解するのか、またその職業をもっている業界にはどのような会社があるのか、採用の実際とは具体的にどのようなものかを学ぶ教育です。キャリア教育が人生を進めるエンジンであれば、職業教育は仕事や会社を選ぶハンドルの機能を持っていると考えております。
 ですので、両概念は両輪のような関係ではありますが、キャリア教育が基本で、その上に職業教育が乗っているイメージです。もちろんキャリア教育の土台に基礎学力など学校で学ぶ学問があります。ここまでが学校が関与する教育です。
さらに学校で学ぶ基礎学力・キャリア教育・職業教育の土台に生活習慣や生きる上での人としての常識など家庭等(保護者)で学ぶ人間教育の基礎があります。
今では当たり前に理解できる構造ですが、当時これが障がい者の就労支援では難しく、国が指導しているキャリア教育論の実践がスタートの段階で殆ど無理であることがわかるまで数年を要しました。

 話はそれますが、健常者の高校生や大学生でもキャリア教育を施し、きちんと理解し自分自身のキャリア観を構築していくのは現在でも至難の業であると思っています。
むしろ自分の興味を引く職業は何か、またどんな会社があって、現在の就職市場がどのような現状であるか、また採用担当者は面接の場面でなにを求めているのか、人事が求める常識(喜ぶ)面接マナーとは等々、リクルート業界が商売にしている内容ばかりが人気です。

 私自身多くの就職主体者やリクルート業界と接してきて感じているのは、多くの学生は本来のキャリア教育を苦手とし、テクニックレベルの職業教育の方に傾倒している事です。
何故ならキャリア教育は、自分の力で人生を考え、その中での職業人生をどう生きていくのかを想像して、それを実現させていく入り口に自己責任で立つわけですから、若者自身が自分の哲学を自分自身で作り上げていくようなものです。間違いなく、それは自分自身の事だけではなく、親兄弟友人や自分を取り巻く社会環境等々全ての関係も含めて頭と心を酷使して全力で考え抜くとてつもなく苦しい段階です。

 当然、そんな面倒な場面は多くの学生達は無意識に避けるわけです。その苦しい哲学構築は建前論でお茶を濁して、より楽なより目の前の気になる就職儀式ともいえる面接やマナーなどのテクニック偏重の職業教育の習得に時間を費やします。
そして自分のテクニックを他者より磨くことに精を出し、面接や適性、就職試験等に臨む事になります。早期の中途離職の多さは、このあたりの問題が起因していると私は考えます。

 本来なら、本気で考え抜いて選んだ人生を形成する職業人生は簡単には手放せるずはないと私など考えます。適当にお茶を濁したキャリア観、職業観だから会社を、仕事を簡単にあきらめるのです。これは企業側の人材を見極める採用能力の問題もありますが、多くは学校等の進路指導やキャリア教育の在り方やキャリアやリクルートを商売にしている業界やキャリアコンサルタント等専門家達の問題だと思います。

話を戻します。

 人は誰でも今日より明日を良くしたいと考えます。
しかし、知的障がいを持った方の中には、自分でより良い暮らしを考える事が困難な方がいます。また、本人が考えたとしても認知能力や判断能力の弱さから必ずしも本人の暮らしがよりよくなるとは限りません。ですから、本人に関わる誰かが今日より明日をより良くするためには何が必要かを考えて実践していく必要があると思います。(肢体不自由な障がい者の場合は、自身の状況を踏まえたキャリア観を普通に持ちえます)その当たり前の事と障がい者における就労支援にむずびつける事に気づくまで、前述した通り、我々外部専門家であっても数年を要したわけです。

 弊社に特別支援学校博多高等学園から与えられたミッションには、スタート時は単に教育現場の教員達への側面支援と生徒達を一般就労させるための授業計画の推進でしたが、そこには解決すべき問題があり、大きく分けると6つのカテゴリーがありました。

① 教員側のキャリア教育の実践能力の問題
② 行政側の障がい者就労支援の旧来スタイルからの脱却の問題
③ 採用する側の企業の要員管理の問題(福祉目線から人材目線への転換)
④ 保護者側の自助・公助・共助の本質の理解と家庭教育の重要性
⑤ 外部専門職能の在り方
⑥ 福祉事業所等の経営スタイルの問題

もちろん、戦略性を持った位置づけの学校であっても単体で解決できる問題ではありませんが、これが本来の在り方に近づける事ができれば、障がい者を福祉の目線だけでとらえるのではなく、企業経営の中できちんと戦力として活用できる人材として活躍でき、例え保護者が亡くなっても障がい者自身が周りの協力を得ながら、自己の力をベースに今日より明日、より良き日を求める事ができるのではないと考えています。

● 次回は「試行錯誤の時期のカリキュラムの策定状況のレポート」(続き)です。(*就労を前提とした外部専門職能支援の考え方)

2020/07/07
執筆署名:佐藤康弘

博多高等学園授業風景
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