福祉:特集記事その⑤ 特別支援学校におけるキャリア教育 2020年7月27日 投稿情報「職業教育からキャリア教育への展開」
職業教育からキャリア教育への展開
知的障害者に対する一般就労支援の授業計画での外部専門職能の取り組みに対する様々な問題は、本レポート①~④で記した通りです。
知的障がいを持った生徒達に自分がこれから社会に出て、築いていく長い人生と仕事を通して毎日をおくる職業人生について自己構築させていくのは、健常者でも難しい難題であり、またその作業は知的障がいを持った生徒達には、おそらく理解の範疇を超えた苦痛以外の何物でもなかったと思います。この面白くない授業カリキュラムは、当然のごとく興味と共に自信をもなくす可能性が非常に高い事が予想される状況でした。
ところが、反復練習で結果を出せる職業教育のビジネスマナーや面接対応マナーに関しては高い成果を出し、これが生徒自身の自信につながる効果が次第に判明したのです。我々側の担当するプロ講師陣はエアライン出身の職歴がありますので、マナーに関してはそれこそ厳しい目線を持っています。その講師陣からしてほぼ満点の評価が2年生の段階で下せる状況がどの期生でも続きました。2年生で満点ですので、3年生になると学校を訪れる企業担当者や他校の教員、行政の職員や学術レベルの障がい者研究者などの訪問者も一概に驚きの感想を持たれます。
そして自分達の担任以外の外部の大人達から高い評価と感想をもらい、職業実習先等の企業から高評価を得る事により、生徒自身が自信を持ち始め、そのマナーを発揮する社会や職場や会社・仕事に対して興味を持ち始めるようになりました。この自信が次第に職業や企業に興味をもちはじめ、自分の職業人生のスタートをどのようにとらえるかを意識するようになり、カリキュラム的に結果として当初無理だと判断していたキャリア教育の入り口に職業教育からつなげる事が出来ると分かったのです。
もちろん外部の専門職能による授業だけでこの成果を出せるわけではなく、通常の学校授業の中で、教員達の我々のカリキュラムをベースとした授業支援があったことが大きな成果要因でもあります。また、学校自体のハード・ソフト等の設備が極めて日常的に職業を意識できる環境であった事も大きな要因のひとつと考えています。ビジネスマナーや面接マナー、日常的なマナーの習得に大きな成果が出せたのは、実は知的障がいの特性がプラスになった面があると考えています。
このあたりは私が専門セミナーで教員セミナーや業界向け講演で講話させて頂いた講演テキストを本HPの資料編で後日アップしておきます。もちろんテキストを見ただけでは詳しくは理解できないかもしれませんが、なにかの参考にはなるかと思います。また、当時進路指導を主で担当していた教員が障がい者教育の専門誌にレポートを寄稿されていますのでこれも資料集に後日アップしておきます。
話を戻します。
カリキュラムは年度毎にマナーチェンジを繰り返しました。基本カリキュラムは維持しますが、実施方をいろいろな指導方法を試験的に組み込み、まさに試行錯誤をさらにブラッシュアップする現場での臨床的かつ研究的な取り組みを数年にわたり実施し、学校側と外部専門家双方で進路支援の教育カリキュラムの適正化を図ったのです。現在、基本カリキュラムは固定していますが、福岡市の福祉施策や教育界や保護者の価値観、さらには採用する側の企業の経営環境の変化などが残念ながら新卒障がい者にとって決していい条件ではなくなってきましたので、現在の基本カリキュラムは福岡モデルの変革期に入りつつあると私など考えています。
本レポートその⑤で、弊社の福祉事業におけるキャリア教育・職業教育の報告は一旦終えたいと思います。
了
2020/07/27
執筆署名:佐藤康弘