人事考課制度の考察その③ 2020年8月28日 投稿情報

序列と処遇への反映の相反問題

①と②の記事で人事考課制度の本来の目的と機能、さらには人が人を評価する難しさを記しました。
考課者(上司)と被考課者(部下)の価値観(常識)や主観(好き嫌い)を100%客観性に近づける事は難しいですが、全社員を組織自体が持っている価値観や主観に近づける事により、その企業に合った納得性の高い仕組みとして人事考課制度を機能させる事が可能であるのは事実です。ただ、人であれ、組織であれ価値観や主観に関しては、思いの部分つまり精神的な領域ですので永遠の取り組みとなります。

私などは、永遠の取り組みの結果よりはむしろその過程が重要で、その過程に関係している事自体が組織人として大きなモチベーションにつながり、偏った主観ではなく自分達組織の風土に合った主観、つまり「訓練された主観」を手に入れる事ができると考えます。
人事考課制度のもう一つの難しさは、制度そのものの現実的な不合理さです。

①や②で記した通り、人事考課制度と教育制度を連動させる事が運用の核である事が正しい姿です。これは真実ですが、そうすると人材育成の観点から評価制度を見ると、評価方式は絶対評価であらねばなりません。つまり、社員個人の成長度合いは他者と比較するのでなく、社員個人の成長度を考課表と見比べて行うのが筋です。

もちろん評価時は、ほとんどの場合絶対評価でスタートするのですが、評価の最終段階では、絶対評価と相反する相対評価で結論をつける事になります。ここに人事考課制度のもう一つの問題・矛盾があるのです。
人事考課制度は人格を評価するものでなく、また組織内で序列をつけるものでもないのは正しい考え方です。

また、人事考課制度を導入するきっかけは業種業界問わず、「がんばっている社員にはきちんと報いたい」「努力が足らない社員にはそれなりに」が多分にあったと思います。
相対評価では社員の努力結果を考課表で判定するのではく、他者との序列で判定します。仮に全員がA評価なら全員に報いなければなりませんが、現実的な問題は全員に報いる事ができないのです。それは報いる(処遇に反映する)方法が賞与や昇級昇格・報酬が主になっているからです。

つまり報酬原資には限りがあり、原資内で処遇を行う為には当然評価結果を原資内で収まるようにバランスをとらなければならない訳です。この時点で、制度構築当初の目的であった「報いたい」という正論が崩れてしまう事になります。そして、崩れたままで運用していくと、社員の中で評価に対する不信感が高まり、結果として人事考課制度を導入したために組織風土が悪化する事さえありえます。

これが人事考課制度のもう一つの問題となります。組織運用の中には様々な問題があり、どの企業もその問題を解決すべきと一所懸命になって努力するわけですが、じつは問題の中には「解決できる問題」と「解決出来ない問題」があります。人事考課制度の問題は解決できない問題の範疇なのかもしれません。

2020年08月28日
執筆署名 佐藤康弘