人事考課制度の考察その① 2020年8月24日 投稿情報

人事考課の是非について「トータル人事制度」

 業種業界を問わず多くの組織では人事考課制度を導入しています。
これは日本で展開している普通の組織体(一般企業から公的機関まで)では、組織を運用するための仕組みとして「トータル人事制度」を導入しているからです。


 トータル人事制度とは「人事基本制度(格付けの体系)・給与制度・教育制度・人事考課制度」の4つの制度が連動して機能する仕組みの事です。
これを普通に人事制度と一般的には呼ぶのですが、その仕組みの詳細はまたの機会に記事しますが、今回は人事考課制度について、その仕組みと機能や効果ならびに導入の仕方などを数回のシリーズで述べます。

 私は人事教育畑でキャリアを積重ねてきて、現在経営コンサルティング会社で勤務しており、経営全般から専門分野の人事教育関連まで広く相談を受けています。その中で業種業界を問わず組織を支える仕組みの構築と運用のご相談や質問がやはり多いのです。
 そしてその中でも、人事考課制度に関する相談は教育制度と並び常に相談のトップにあります。人事考課制度の悩みの中で、まず最初にあがるのは、現在考課と呼べる仕組みがなく、働く従業員に対して、がんばっている社員にはきちんと報いたい、頑張りが足らない社員にはそれなりに注意喚起の機会をもうけたいと言うものです。

 次に人事考課制度は持っているが、現在効果的な運用になっておらず、賞与や昇級昇格を単に決めるだけの仕組みとなっており、経営側からも社員側からも本来人事考課制度に期待する効果から無意味な行事化した仕組みとなってしまっていて、考課時期には通常業務のお荷物的な作業イメージが強いと言うものです。ですので、現在運用中のほとんどの組織の場合、人事考課結果を単なる賞与額や昇級の処遇反映の為の制度という感覚が多いのではないでしょうか?

 また、介護業界の場合は、政府が進めている介護士の処遇改善のための助成金の取得条件としてキャリアパス制度の構築と運用が求められており、キャリアパス制度は先述したトータル人事制度がベースになっていますので、介護事業を運営する上で、人事考課制度の導入・運用は、ほぼ必須の条件になっています。運用が機能しなかったり、考課時期になったら思い出したように作業を始める行事化した仕組みになっているのは、人事考課制度が何のために存在しているのか?何故我々組織で人事考課制度が必要なのか?人事考課制度を導入することにより我々組織はどのように成長できるのか?など少なくても制度構築時に議論した事が忘れ去られている為だと思うのです。

 よく人が人を評価するのは無理だとか、我が社のチームワークのバランスが崩れるとか、評価する事自体がイヤ(馴染まない)だとかいう経営幹部の存在も少なくないのですが、それは自社の社員を格付けするための制度程度の理解しかないからだと考えます。あるいは、人事考課制度の運用の難しさを知っているからこそ、反対したりするのかもしれません。

 実際、人事考課制度は人が人を評価する、つまり評価する側の上司の好き嫌いが過分に介在する主観評価にならざるを得ないので、どうしても完璧な誰が見ても客観性がある公平かつ平等な人事考課制度は、私の長い経験からも優れて成功した人事考課制度など見たことがないです。(ただ、その組織にだけあったスタイルの人事考課は存在します)それは多くの組織が制度構築をする時に人事考課制度の本質を理解していない為だと思います。

 長年のノウハウから、人事考課制度の究極的な目的は極論ですが、自社の社員がそれぞれの職域・職層で自分に与えられた「仕事(役目)を知っているか?知っていないか?」そしてその「仕事(役目)が出来るか?出来ないか?」を判定する為のメジャー(物差し)、単なるツールだと考えます。そして、人事考課を実施して物差し(考課表)で社員の仕事に対する力(保有度・発揮度と言います)を明確にした上で、判定結果に対して様々な処遇に反映させるのです。

 この段階まではどんな組織でも同じなのですが、処遇に反映させる段階が大きく間違ってしまう企業がとても多いのです。実は人事考課を実施すると組織内で勝ち組の社員と負け組の社員が明らかになります。勝ち組とは「仕事を知っていて、仕事ができる社員」であり、負け組は「仕事知らなかったり、仕事が出来ない社員」となります。

 組織が成長していくためには、本来は負け組を勝ち組にしていく必要があるのです。つまり負け組を勝ち組にもっていくためには、人材育成(研修や教育)が必要で、人事考課制度は教育制度と密接に繋がった制度なのです。負け組が勝ち組になれば、それだけ仕事ができる社員が増えていく訳ですから、業績の高い、あるいは何か問題があったとしてもリスクヘッジが容易にでき、常に組織と職員が成長するスパイラル効果が期待できる訳です。

 ところが多くの組織は、人事考課制度と教育制度と関連づけずに、人事考課制度と給与制度との関連づけだけに終わらせてしまっています。つまり勝ち組だから賞与は何%増、負け組だから賞与はこの額、昇格はいずれという形の処遇反映で終わらせてしまうのです。
 本来は負け組を救済しなければならないのですが、残念ながら人事考課制度と教育制度が連携していなければ、負け組は折角の成長の機会を奪われ負け組は来年も負け組のままで終わってしまう事になります。ですから、人事考課制度が上手く運用されている企業は、おしなべて人材育成の仕組みがまず上手く機能している所が殆なのです。

 人が育つ組織は間違いなく強く、経営がまさに継営されている、繁栄の状態にあると言えます。結果、表題の人事考課制度の是非に関して、私はボタンの掛け違いさえしなければ是だと考えています。

次の記事では、制度自体は是でも、実は多くの問題があることを記事にしたいと思います。

2020年08月24日
執筆署名:佐藤康弘

※ 本記事は2018年5月に提携先「SPEC経営研究所」HPにて投稿した記事の転載です。