福祉:特集記事その③ 特別支援学校におけるキャリア教育 2020年7月13日 投稿情報「試行錯誤の時期の現状把握と理解」(続き)

試行錯誤の時期の現状把握と理解

その②でも記したように、特別支援学校でのキャリア教育の当初の基本方針は、国のキャリア教育の指針に準じて職業観の醸成からスタートしました。
知的障がい者(軽度)向けの効果的かつ効率的で本格的な授業計画のひな型があったわけではありませんので、我々外部の専門職能としては選択の余地などなかったのです。
そして、職業観の醸成カリキュラムから「入れる」と判断した理由に生徒の障がいレベルの把握の勘違いもありました。

 もちろん学校側から医学的かつ心理学的な方面のレクチャーは受けていましたが、私も含め弊社のプロ講師陣も接した生徒達の最初の印象や対応はまるで健常者の高校生となんら変わらない授業態度で、むしろ講師の授業を積極的に受講する姿勢があり、最低限以上の受講マナーも申し分ない状況だったのです。
 表面的なコミュニケーションではありますが、正直なところどこに障害があるのかわからないレベルです。
厚生労働省主催の全国高校生就職ガイダンスで指導してきた延べ数万名の高校生達と比較しても上位に判定できるほどでした。
講師の質問に対して、多少しどろもどろなところはありますが、講師との応答にははっきりと答え、知的障がい者が最も苦手とするコミュニケーション能力はほぼ問題ない印象です。しかも全クラス全員が等しく同じレベルに達していました。

 むしろ健常者の高校生達の方が、授業への参画意識は低く、課題をやり遂げることに興味も意味も感じず、中には講師の話など最初から聞く姿勢などないのが当たり前(当時)でしたので、博多高等学園の生徒達に対しては、自然と我々も授業のハードルが高くなり気味で、カリキュラム自体も当初から変更を重ねる状況でした。
しかしながら、授業を進めて行く過程で、生徒自身の職業観の醸成に関しては中々理解度が進まず、就労や就活ステージでの不可欠なキャリア教育がとん挫しかかりました。

 自分自身の職業観の構築がなかなか進まない事に、おそらく生徒達は自信を無くすのではないかと危惧しながら授業自体は進行したのですが、生徒達の状況はモチベーションダウンする様子はほとんど見られませんでした。
当然、我々側もカリキュラムと全体授業計画の振り返りとレビューを重ねました。

そこで当時の時点で判明した事は次の通りでした。

① マナーレベルの人的対応は予想を上回る技量を持っている。
② 効果が高いビジネスマナーの習得能力は健常者の高校生を超えている。
③ 外部専門職が実施する授業への興味、モチベーションは維持できている
④ 反復練習等が必要なカリキュラム(特にビジネスマナー)の習得能力は高い
⑤ 自己を認識し、自己適性等キャリア観を把握・構築する作業は難しい。(自己の障がいの認識はできている)
⑥ 他者評価は厳しく、自己評価能力は低い
⑦ 講師側の理解度の判定が難しい(わかっていなくても元気よくハイと返事をしてしまう)
⑧ 外部授業と学校側の授業カリキュラムの連携が十分ではない。
⑨ 教員側の就労支援や採用市場、企業の要員計画の実態の理解不足(従前の教育スタイルの継承)
⑩ 戦略校としての位置づけの意義の浸透不足

 もちろん、上位以外にも問題点や課題点や疑問点は多くあり、更には採用する側の企業の問題や行政側の問題など、年間を通じた授業計画だけでは課題克服は難しく、ましてや外部専門職能自身の見えない問題の把握や理解が十分ではありませんでした。当然カリキュラム内容は、当初の手探りの状況へ戻り、学校側と我々の認識とノウハウの共有と教育レベルとしての障がいの把握、福祉の目線での障がいの理解など進める為に、毎回の授業後、学校長や教育指導主事、クラス担任、学年担任などを交えて意見交換の時間を積極的に持つようにしました。

● 次回は「試行錯誤の時期のカリキュラムの策定状況のレポートその③」(続き)です。
(*当時の就労支援授業のカリキュラム内容の整備や体制構築)

2020/07/13
執筆署名:佐藤康弘

博多高等学園
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